2Dコンセプトアートからどのように3Dになるのか? 2Dアートディレクターと3D背景デザイナーの2人にインタビュー

2Dコンセプトアートからどのように3Dになるのか? 2Dアートディレクターと3D背景デザイナーの2人にインタビュー

こんにちは!
ホロアース運営チームです。

今回はホロアース開発スタッフとして働いている2Dアートディレクターの「YKさん」と3D背景デザイナーの「シマノさん」に話を伺いました!
お二人にはシミュレーションルームやキョウノミヤコなどのエリアが、2Dのコンセプトアートからどのように3Dで作られるのか? お互いにどんなコミュニケーションを取り合っているのか? などのお話を語って頂きました!

【インタビュイー紹介】
YKさん
ポジション:2Dアートディレクター
入社時期:2021年4月頃
業界歴:約8年

シマノさん
ポジション:3D背景デザイナー
入社時期:2022年4月頃
業界歴:約20年

――まずは、お二人のこれまでの経歴や担当業務ついて教えて下さい。

YKさん(以下、YK):前職はコンシューマーゲーム会社で8年くらいコンセプトアーティストとして働いていました。その後、ホロアース開発チームにアートディレクターとして入社して、今は3年目になると思います。
業務としては、ホロアースに実装される背景やプロップのコンセプトアートデザインを担当しています。

▲YKさん制作のコンセプトアート

シマノさん(以下、シマノ):僕もYKさんと同じで、ゲーム業界にいました。20年くらいこの業界にはいて、コンシューマーやアーケード、スマホ・モバイル系、果ては遊技機系まで、ありとあらゆるジャンルを一通りこなしてきました。
そこから、ホロアースの開発チームに入って、ちょうど2年になるぐらいだと思います。
ホロアースでは、3D背景デザイナーとして主に背景の仕様策定や背景制作、そして最終的な品質管理を担当しています。

――お二人が入社された当初のホロアースってどんな開発状況でしたか。

YK:2021年4月に入社したころは、まだホロアースの企画が立ち上がった最初期でして。最初に見せてもらったのは、Unityで無料アセットの中をタレントさんの3Dモデルが走っているだけというものでした。ホロアースで実現したいことの非常にラフなモックがあるだけで、具体的な骨子がまだしっかりある状態ではなかったです。

シマノ:そうですね。僕は2022年4月に入社したのですが、当時は3D背景チームがほぼない状態でした。なので、チームを組成するにあたって中心的なメンバーになって欲しいみたいな話を頂きました。

――まだなにもない状態の時に参画されたんですね! では、今お二人がどういう風に仕事を進めているのかを教えてください。

YK:まず、プロデューサーやディレクターからプロダクト要件が降りてきます。
例えば、シミュレーションルームの要件では、ハウジングとクラフトができるマップ作りをオーダーされました。
「木を切ったら木材が手に入って、それを使ってクラフトとハウジングができる」などのUX(ユーザーエクスペリエンス)的な要件を満たしつつ、ホロアースの世界観として成立させるために、プロデューサーとデザインを詰めていきました。

――そうして出来たコンセプトアートを元に3Dチームの方が作業をしていくという流れですね。コンセプトアートから3Dで作っていくにあたって意識していることなどありますか?

シマノ:はい。基本的に3D側は元になるイメージがないと創造的な世界は勝手には作れません。
コンセプトを描く2Dアートが0から1を作る仕事だとするならば、僕の仕事はその1を100にすることだと思っています。
なので、貰ったコンセプトアートを可能な限り再現をしながら100にするために、2Dでは描かれていない裏側の風景とか、細かなディテールまで作り込むという感じで制作しています。
そして最終的に3D側でバランスの良い見た目になるように調整します。

▲YKさん制作「シミュレーションエリア」のコンセプトアート
▲コンセプトアートには描かれていない木の裏側や細かいディテールの作り込み

――ホロアースの開発体制を見ていると、2Dチームと3Dチームが一丸となって開発しているイメージがあります。コンセプトアートが出来上がって、3Dで作り込んでいく段階になっても、密にコミュニケーションを取り合っていますよね。

シマノ:あまり畏まった感じではなく、聞きたい時に訪ねるという感じでやっています。例えば、立体化するにあたって、どういったテイストがいいか悩んでいる時に、YKさんに聞きに行くと、一緒に考えて下さって、2D側の考えと3D側の事情を織り交ぜながら、現実的な制作方法や制作の方向性を見極めていきます。

YK:最初から2Dで全てを伝えられるとは思ってはいなくて、デザインを制作する上で考えていたことなどを、こういった軽い会話の中で、詰めていけるっていう状態は凄い良いと思っています。

シマノ:アートの方が近くにいることによって、最終的なゴールイメージをブレずに保ったまま制作を進められるので、非常に良いと思っています。

――メタバースという今までにないような分野をやっていく中で、プロデューサーやディレクターの意見が変わることもあると思いますが、それに対して、どう柔軟性を持って対応していますか?

シマノ:僕の場合は、まず、作ったものを壊すことも制作の一つだと思っています。作って終わりではなく、初めに作ったものを出発点として、フィードバックを貰いながらどんどん直していきます。
一方で、3Dグラフィックチームはデザインのアウトプットとして1番最後の工程を担当しているので、締切に対する意識は非常に強く持たなくてはいけません。
なので、ずっと作り込んでいたいという気持ちと、締切に間に合わせるためにクオリティのラインを決めないといけないという考えがいつもせめぎ合っています。

YK:守らないといけないスケジュールの中で、ここだけは外せないという部分を決めて、どうしても妥協しないといけない部分は工夫して落とし所を決めています。

――チームとして大きくなってきて、各メンバーとのコミュニケーションやチームビルディングに対してどうアプローチをしていますか?

YK:そうですね。2Dチームに関しては、基本的に絶対にこうして欲しいみたいなものは、あえて設けていません。
まず各メンバーがやりたいことを出してもらって、なるべくそれを活かせる形でデザインに落としていくという感じですね。

シマノ:3D背景チームの場合は、大きな話と小さな話の2つがありまして、大きな話は、チームで大切な価値観を共有しあっているというところです。
お互いに尊重し合うこと、作り直しを厭わないこと、仲間を孤立させないこと、考えを否定しないこと。そういった気持ちをみんなが持ってくれています。
小さな話では、各メンバーのToDoを全部見える化しています。
口頭で言われた細かいオーダーを含めて全てToDoリストにすることで、タスク見逃しやタスクオーバーが起こらないよう管理し、タスクが適材適所かつ均一化できるようにしています。

――ホロアースという今までにないようなサービスを作り上げていく上で、チームとして意識しているところはありますか?

YK:さっきの話に少し繋がるんですが、プロデューサーのもっている世界観とか方針は大前提に大切にしつつ、その上で、なるべくメンバー個人個人の価値観を広げて、ホロアースに反映できたらいいなと思っています。

――ちなみに、YKさん自身の世界観の広げ方や価値観のアップデートってどういったものですか?

YK:長所を伸ばしたりとか、誰もチャレンジしていないところを考えています。
実際にあるものを参考にしながら、例えば、AとBの組み合わせは誰も見たことがないよなとか。
色々な背景とか世界観を組み合わせて誰も見たことのないようなものを日々インプットしながら探っています。
あとは、プロデューサーがもっている大枠の世界観を更に良いものにできるような世界観や価値観に対しては、なるべくアンテナを向けて摂取しようとしています。

――シマノさんが、シミュレーションルームを作ったときのことを教えて下さい。

シマノ:シミュレーションルームの時はYKさんが描かれたコンセプトアートが出発点でした。
まずは、必死にコンセプトアートを観察し2Dイラストを頭の中で完全に3D化します。
その空間をしっかりを脳裏に保存したまま、DCCツールで3D再現していくという作業になります。
3Dで作っていく上で気をつけたことは、YKさんのイメージを損なわずになるべく素直に立体化したいというところです。
それがある程度できたと思ったら、2Dイラストで描かれていない周りの風景を360°破綻なく作っていくことに目を向けていきます。

①コンセプトアート
②コンセプトアートから全体のモデリングをした状態
③ライティングで全体の明るさや色味を調整した状態
④周辺部分の作り込みやゲーム要素(ポータル)を入れた完成形

最後はテクニカルアーティスト(以下TA)と連携して独自のシェーダーや表現などを作ってもらい、全体のグラフィックレベルを1~2段階あげる作業を行います。

▲TAと連携してステンシルと全天球動画を組み合わせて、独自の視差効果のある空の表現を生み出した

――表現の部分とか最後のディテールは、3Dモデルだけではできない場所があるので、TAと詰めていくという感じですよね。

シマノ:そうですね。そこで面白いのが、アートから3Dにフェーズが移り、3DからTAに相談をして、今度はTAがアートに相談や確認がいくというサイクルが意外とあるんですよね。
そこが僕は面白かったり、それで良くなっていくんだなっていうのを実感していますね。

――今まで携わってきた開発現場ではあまりなかった環境ですか?

シマノ:僕の感覚では、こんなに純粋なクリエイティブな環境っていうのはあまりないなと思います。
大体、締め切りとかに忙殺されて、間に合わせることに終始してしまうんですよ。
でも、ホロアースの開発では「このアセットの見た目をどうするか」とか、そういうことに時間を割けられる。
なんだったらそれが作業の6-7割を占めている感じがします。

YK:普通はアートも、デザインを作ったあとは3Dの方に関わることはあまりないのですが、
ホロアースの開発では、アウトプットに対して、2D側も責任を持って監修して、一緒にブラッシュアップしていくという環境が面白いと感じています。

――そうやって、去年はキョウノミヤコやシミュレーションルームとしてリリースされましたね。ユーザーの反応を見て、なにか思うところとかあったりしますか?

YK:まだまだコンテンツも不十分な中、それでも楽しんで頂いているユーザーさんをみると大変励みになります。

シマノ:実際に、多くのユーザーさんがシミュレーションルームとかキョウノミヤコとかを訪れてくれて、ぴょんぴょんと跳ねたりして、隅々までつっつくように見てくれているのを見ると、嬉しい反面、ドキドキもします。
ホロアースを遊んでくれるユーザーさんって、優しくも厳しいという2つの目線で見てくれているんですよね。
数多くの嬉しい言葉、そして時々鋭い指摘も頂けて、本当にありがたい存在です。
なので、リリース日は1番緊張するし、1番高まる瞬間ですね。

▲2024年1月1日にオープンした正月仕様の「キョウノミヤコ」沢山のユーザーが初詣に訪れた
▲「年末ホロライブ〜ゆくホロくるホロ 2023▷2024〜」を大きなコタツを囲みながら、同時中継を楽しむユーザー

YK:こんなに作りながらリリースするのは、コンシューマーではあまりない経験ですよね。

シマノ:そうですね。このライブ感が妙に面白いです。

――作り込んでいける環境というのもありつつ、ユーザーさんと会話しながらリリースできる環境が両立できていますよね。

シマノ:あとは、プロデューサーから「ずっと作り続けていくものだから、本当の完成はもっと後でいい」みたいな方針を示してくれていて、ある意味ホッとしているところがあります。
この方針のお陰で、しっかりと地に足つけて、今回はここをしっかり作るとか、これは次回に持ち越すとか、どこに1番注力して作るかの整理ができるので、間に合わせるための妥協とかをしなくてする必要がなくなっています。
なので、ユーザーさんには、前回よりも良くなっていく、成長していくセカイ、グラフィックに期待を持ってもらいたいと思っています。

YK:そのためには、毎回ユーザーさんの信頼を裏切らないことが大切で、緊張感をもってやっていきたいと思っています。

――最後に、これからチャレンジしていきたいことを教えて下さい。

シマノ:今も思っていることではあるのですが、最初のイメージのところで、アートチームに100%頼ってばかりもいられないなと思っていて、お互いに補完し合っていきたいと思っています。
0からの書き起こしではないと作れないようなイメージではない場合は、3D背景チームの方で、できる限りデザインを含めて逆に提案して作っていきたいです。
例えば、今作っている「オルタナティブ・シティ」は大きな街なので、細かい部分までアートチームに全て頼ることは不可能だと思っています。
なので、街路樹とか植え込みとか現実世界でも見かけるようなモチーフであれば、背景チームでうまくデザインして作っていくということを徐々にやっています。
今後はそういったところを強化していきたいと思っています。

YK:常日頃から、ホロアースならではの体験とは何だろうと頭を悩ませているのですが、景観や生き物等、細部に至るもののデザインがホロアースでしか得られない体験に結び付くよう作っていければと思っています。